そんな事を考えながらガレージの倉庫からストーブを運び、冬支度している最中だった。
強い風が吹き抜けるたびに厚手のハーフコートの襟を立て
「サムイ」と呟きながら奥歯を噛みしめる。
気持ちだけはとっくに部屋の中にいた。
上りかけた階段で足を止め、桜の樹に視線を止める・・・。
三日前、桜の樹の下に、道ばたで冷たくなっていた小鳥を拾って埋葬した。
春になったら桜の花となって生まれ変わってね、と。
小鳥の眠るお墓に三色の野花を添えて、深く目を閉じ、手を合わせた。
暖かくなり、薄いピンク色の桜の花となって、もう一度だけ生まれ変わったら小鳥は幸せなんじゃないか、と。
私のエゴかもしれない。
少しだけ暖かい日は、バルコニーに置いたイスに座り、桜の樹をぼんやり眺める。
もしかすると一輪だけ先に咲く花があるんじゃないかと。
近くで鳴いていた一羽の小鳥が桜の枝にとまった。
少し悲しげに、少し優しい顔で。亡くなった小鳥の恋人だったのかもしれない。
すぐ近くの電線で二羽の小鳥が仲良さそうにさえずり合っている。
それに気付いたのか小鳥は鳴くのをやめて桜の枝でじっとしていた。
何かをこらえているように、ぐっと我慢するみたいに。
次の日も一羽の小鳥はとまっていた。
少し悲しげに、少し優しい顔で。
きっと小鳥も春を待っている。
逢えなくなった恋人が桜の花になる日を待っている。
生まれ変わった恋人にキスする瞬間を待っている。
誰よりも先に出会う為に。
誰よりも先にキスする為に。
もう迷わない為に。
雨の日も。風の日も。寒い夜や寂しい夜も。
暖かい日にはバルコニーのイスに座る。
小鳥は今日も桜の樹の枝にとまって恋人を待っていた。
鳴く事を忘れてずっと待っている。
ひたすら待ち続けている。
最初で最後のラブレターをクチバシに忍ばせて。
桜の季節を知らずに。
もしも季節はずれの花に、キスする小鳥を見掛けたら優しくつぶやいて欲しい。
やっと逢えたんだねと。
赤嶺しげたか 2009・1・20 沖縄タイムス「唐獅子」掲載
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