たとえ
ひとりだとしても
だれかと一緒でも
車を運転しているときが
人より、すきかもしれない。
ハンドルをにぎる手を
右手にして、
左手で頬杖ついてのんびりしてみたり
ハンドルを持つ手を左手に変えて
右手の指先でBGMのリズムを叩いてみたり
両手でハンドルをにぎり直して、
背筋までしゃん、としたりして。
時々、遠まわりして帰ることも
楽しみのひとつになっている。
道路が渋滞していると
よけいに嬉しくなる。
「少しだけ長くドライブが楽しめるぞ」、と。
・
夕暮れ時の渋滞の中。
遠くに夕焼けを眺めて
BGMの消音ボタンを押す。
そして無音の空間の中で
ふと、考える。
車間距離の「間隔」と
運転手の幸せの「感覚」は
似ているのかも、と。
幸せはとても繊細で
傷つきやすいもの。
だから、こぼれないように
両手でやさしく持たないといけない。
それは、どこか車の「間隔」に似ていて
詰めすぎても、壊れやすく
空けすぎても、持つことができない。
運転手の器の大きさや
人生の満足度、そして
幸せの「感覚」と「間隔」が
車間距離に見えるような気がした。
信号待ちで
夕焼けの赤を見ていたら
すこしセンチな気分になって
その「感覚」を
大好きな車の中で味わってみる。
・
隣の車がウインカーを出した。
ゆっくり減速して道を譲る。
ナンバープレートの「Y」の字に
オーバーに手を振る運転手が重なる。
少し笑って合図を返した。
幸せを譲り合うことによって、また
幸せが生まれる。
たとえ他の誰も気づかない小さな幸せだと
しても、譲った幸せが人の笑顔に変われば
きっと、明日もいい日になる。
今日も
明日も
あさっても
そんな小さな幸せを自分で作りだして
人生ドライブを楽しんでいこう、と
歩道の子ヤギとおじさんに
道をゆずった。
アスファルトの歩道をメェーメェー鳴いて歩く
子ヤギを眺めながら、
窓をあける。
夕暮れ時の少しひんやりとした風に流れて
干し草の匂いがした。そんな、気がした。
子ヤギとおじさんが渡りきるのを
笑顔で見届けて車を発進させる。
きっと明日は今日よりも
幸せの「かんかく」を
大事にして行ける。
そんな、気がした。
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