COLUMN

人生ドライブ2

drive2

たとえ
ひとりだとしても
だれかと一緒でも
車を運転しているときが
人より、すきかもしれない。

ハンドルをにぎる手を
右手にして、

左手で頬杖ついてのんびりしてみたり
ハンドルを持つ手を左手に変えて
右手の指先でBGMのリズムを叩いてみたり
両手でハンドルをにぎり直して、
背筋までしゃん、としたりして。
時々、遠まわりして帰ることも
楽しみのひとつになっている。
道路が渋滞していると
よけいに嬉しくなる。
「少しだけ長くドライブが楽しめるぞ」、と。

夕暮れ時の渋滞の中。
遠くに夕焼けを眺めて
BGMの消音ボタンを押す。
そして無音の空間の中で
ふと、考える。
車間距離の「間隔」と
運転手の幸せの「感覚」は
似ているのかも、と。
幸せはとても繊細で
傷つきやすいもの。
だから、こぼれないように
両手でやさしく持たないといけない。
それは、どこか車の「間隔」に似ていて
詰めすぎても、壊れやすく
空けすぎても、持つことができない。
運転手の器の大きさや
人生の満足度、そして
幸せの「感覚」と「間隔」が
車間距離に見えるような気がした。
信号待ちで
夕焼けの赤を見ていたら
すこしセンチな気分になって
その「感覚」を
大好きな車の中で味わってみる。

隣の車がウインカーを出した。
ゆっくり減速して道を譲る。
ナンバープレートの「Y」の字に
オーバーに手を振る運転手が重なる。
少し笑って合図を返した。
幸せを譲り合うことによって、また
幸せが生まれる。
たとえ他の誰も気づかない小さな幸せだと
しても、譲った幸せが人の笑顔に変われば
きっと、明日もいい日になる。
今日も
明日も
あさっても
そんな小さな幸せを自分で作りだして
人生ドライブを楽しんでいこう、と
歩道の子ヤギとおじさんに
道をゆずった。
アスファルトの歩道をメェーメェー鳴いて歩く
子ヤギを眺めながら、
窓をあける。
夕暮れ時の少しひんやりとした風に流れて
干し草の匂いがした。そんな、気がした。
子ヤギとおじさんが渡りきるのを
笑顔で見届けて車を発進させる。
きっと明日は今日よりも
幸せの「かんかく」を
大事にして行ける。
そんな、気がした。



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