COLUMN

少し疲れたあなたへの童話

tentou
あるところに視力を失くした天道虫がいた。
「どうせ生きていたっていい事なんて何も無いよ…」
と、夢も希望も失くし、とても疲れていた。

「これからどうすれば…」
天道虫は考えた。
天道虫…
それがこれからの人生のヒントだった。
天道虫…
どんなに困難な道も、道を遮られようとも、
決して諦めることなく必死にお天道様に向かう。
その姿勢から名付けられた。
「よし!目の前の道を進んでみよう」
考え直した天道虫は奥歯を噛み締め歩き出した。
天道虫は進む。雑草の道。
何が待っているのか、どんな困難が待ち受けているのかは
分からない。
それでも進む。
視力を失くした天道虫には
今の自分を信じる事だけが進み続ける術だった。
時折、不安になる。
「今、向かっているのは本当にお天道様なのか…」と。
途中・・・
「道を間違っていないだろうか…」
と迷ったりもした。
それでも自分を信じ、前へ進む。
歩を進めては立ち止まり、そしてまた歩き出す。
「ゆっくりでいい休み休みでいい」
そう自分を励まし進んだ。
今の自分は今までで一番大人だと思う。
だけど一歩進んで振り返ると、
そこには若かった頃の足跡が残っている。
一歩前まで大人だと思っていた自分が
過去を見つめて子供だったと笑ってしまう。
そんなふうに僅かながら成長できた自分に気づくと
うれしくて、楽しくなった。
ゆっくりと登る雑草の道。
その先に、お天道様が待っているのかは分からない。
頂上に辿り着いても、お天道様を感じる事さえ無いのかも知れない。
どこがゴールなのかも分からない。
けれど、
もし、疲れたなぁと感じたら、その場に腰をおろし、
のんびりお天道様を見上げてみたい。
きっと生きているだけで良かったと笑えるような気がする。
握り拳で額の汗を拭った。
視力を失くした悲しみから、
もう、お天道様へ向かう事も無いだろうと嘆いた夜が懐かしい。
取り戻した僅かな自信が追い風となり優しく背中を押した。
見えないゴール、どこまで続くか分からない道。
そんな道へもう一歩、大きく足を踏み出した。
天道虫は笑ってみた。
楽しい時だけ笑うのではなく、
笑っていれば楽しく思えてくる。
楽しく行こう。笑って行こう。
どんなに困難な道でも、
道を遮られようとも、
決して諦めず、
少しずつ少しずつ
歩いて行こう。
こぶしの中に、
夢と希望を握り締めて。
それぞれのお天道様の方向へ。
おしまい

赤嶺しげたか 2009・6・23 沖縄タイムス 「唐獅子」掲載



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