COLUMN

3月3日

ohinasama

「おひな様を優しく抱いて女の子は女らしく大人になるの。
男の子は鯉のぼりを大空に見上げ元気で男らしくたくましい大人になるのよ」


小学校低学年の頃、女の子の家に飾られた壁一面のひな人形を眺め、
幼かった私たちは、その生まれて初めて目にする豪華さに、目とクチをぽっかり開けたまましばらく閉じる事ができなかった。
首の伸びたTシャツや見るからにお下がりのぶかぶか半ズボンだった仲間たちは、
その子の母親の話を、今ではもう覚えてはいないだろう。
私は意味を知らないまま、大人になるまで忘れないでおこうと、
言葉を紡ぐその母親の口の動きをしっかり目に焼き付けていた。
遠い昔、先人たちは、長い年月をかけて見つけ出した知恵や法則的な数字を未来に伝える為に、
ことわざや行事や儀式に多く残している。
きっと、自分たちが体験した苦い経験や過ちを繰り返さないで欲しいと願う親心からだと思う。
1月1日の元日に始まり、3月3日のひな祭り、5月5日の鯉のぼり。
そして7月7日に、離れていた二つの星が1年に1度だけ出逢うという幻想的な伝説も残した。
おひな様を優しく抱いて育った母性豊かな女性と、
鯉のぼりを大空に見上げ育った頼りがいのあるたくましい男性が出逢う。
先人たちは、永遠に変わる事の無いと考えた星の群れと、割れない数字に願いを託した。
何千年の時を越えても男女が永遠にこうあって欲しいと希望を持って。
1年に1度現れる天の川に未来への橋渡しを願った。
さらに先人達は残した。
人はこの世に生を受け、始まりから三、五、七、の節目の歳に改めて見つめ直し考えるよう儀式を置いた。
それは生存率の低かった頃の人々への希望の光だったのかもしれない。
これまでよく頑張った、という晴れやかな想いと、ここまで来たからもう大丈夫、という優しい想いが詰まっていると思う。
そして現在。
先人たちが希望を託した未来。
時代は幾度となく時を越え巡り、今、世の中のすべてが原点に戻る次期に来ているようにも感じられる。
「3月3日」ひなまつり。
先人たちへの感謝の気持ちを忘れずにいたら・・・
今夜、天の川に架かった橋の半分だけ、
先人たちも見ていた春の夜空に光り輝くかもしれない。

赤嶺しげたか 2009・3・3 沖縄タイムス 「唐獅子」掲載



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