あれは、私がまだ型枠大工だった頃・・・
トビ服を着た私は
一級建築士が現場へ来る度に遠くからずっと見ていた。
睨み付ける訳でもなく、尊敬の眼差しを向けるでもなく、ただ自分の夢を諦めないようにしっかり目に焼き付けていた。
きっといつかは一級建築士の資格を取り建築家へ。
それが小学生の頃からの夢だった。
しかし、社会に出て、どんなにいい職場を見つけたと喜んでも半年を過ぎたあたりから自分を正当化する為に、誰かや何かのせいにしては転職を考えた。
自分はちゃんとやっているのに、会社が悪い、上司が悪い、自分は間違っていないのに、と不満を並べて。
仕事から帰るとテレビを付け、ソファにもたれ、夕食を取り
「お金さえあれば何でも出来るのに」
と呪文のように呟き、時間が来れば眠りに就くだけ。
そしてまた何も変わらない朝を迎える。
週末だけを楽しみに、飲み会やイベントに参加しては夢や目標を語るだけで夢を叶えた気持ちになって、満足していた。
そんなある日、 私は気付いた。
自分の中に眠るバイオリズムを知り、しっかり修正すれば夢が叶うということを。
仕事を辞めたいと思う気持ちや嫌なことをパワーに変え、語った夢をプレッシャーにし、
「絶対に諦めない」
と呪文を置き換え、そんな自分の気持ちを上手く利用すれば資格を取る事が出来る。
気持ち一つで悪い事も良い事もパワーに変える事が出来ると。
「お金さえあれば…」
と嘆いていたのは実際には勇気がなくそれを言い訳にしていたのだろう、と今は思う。
飲み会を減らし、欲しい物を我慢し、コツコツ資金を貯め、テレビを消して勉強を始めた。
変わらない毎日を変える為。自分の未来の為に。
逃げない事から始め、勇気を持ち、環境のせいや誰のせいにもせず、絶対に諦めないしぶとさを持つ癖を付けた。
日々の生活から見直し、何事にも言い訳をせず、常に実現する方法を考え実行するトレーニングを続けた。
テレビのリモコンを参考書に持ち換えパワーを与えてくれる職場や環境、支えてくれる人たちに感謝した。
そして現在、
私は自分の設計した現場で一級建築士として日々、トビ服姿の職人に感謝と敬意の眼差しを送っている。
赤嶺しげたか 2009・2・17 沖縄タイムス 「唐獅子」掲載
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